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須佐之男命の試練

記事Oct.28th, 2020
大国主神となる大穴牟遅神が須佐之男命の娘と恋に落ちて試練を与えられる話。
史料によって解釈が異なる場合があります。
史料によって解釈が異なる場合があります。

物語

須佐之男命の試練

八十神やそがみから逃げる大穴牟遅神おおなむちのかみ根之堅洲国ねのかたすのくに須佐之男命すさのおのみことの家まで逃げ延びます。そこで大穴牟遅神おおなむちのかみ須佐之男命すさのおのみことの娘である須勢理毗売命すせりびめのみことと出会い、二柱はすぐに惹かれ合って心が通じ合いました。須勢理毗売命すせりびめのみことが、立派な神が来られましたと大穴牟遅神おおなむちのかみ須佐之男命すさのおのみことに紹介すると、須佐之男命すさのおのみことは、あれは葦原色許男あしはらしこおだと言いました。

須佐之男命すさのおのみこと大穴牟遅神おおなむちのかみを家に入れましたが、蛇のむろやで寝るように命じました。須勢理毗売命すせりびめのみこと大穴牟遅神おおなむちのかみに蛇の比礼ひれを授け、蛇に襲われたらこの比礼ひれを三度振るように教えました。言われた通りにした大穴牟遅神おおなむちのかみは無事一晩を過ごすことができました。

次の晩も須佐之男命すさのおのみこと大穴牟遅神おおなむちのかみ呉公むかでと蜂がいるむろやで寝るように命じましたが、同様に須勢理毗売命すせりびめのみことに授けられた呉公むかでと蜂の比礼ひれのおかげで無事に一晩過ごしました。

すると須佐之男命すさのおのみことは広い野原へ鳴鏑なりかぶらを打ち込み、大穴牟遅神おおなむちのかみに拾ってくるように命じました。大穴牟遅神おおなむちのかみが野原に入ると須佐之男命すさのおのみことは火を放って炎で囲みました。大穴牟遅神おおなむちのかみが困っていると鼠が現れ、内はほらほら外はすぶすぶと言うので、大穴牟遅神おおなむちのかみがその場を踏んでみると、地面の中に空いていた穴に落ちて隠れて火をやり過ごすことができました。さらにその鼠は須佐之男命すさのおのみことが放った鳴鏑なりかぶらも持ってきました。ただし、矢の羽は鼠の子が食べてしまっていました。

その時須勢理毗売命すせりびめのみこと大穴牟遅神おおなむちのかみが死んだと思って泣きながら葬儀の準備をしていて、須佐之男命すさのおのみこと大穴牟遅神おおなむちのかみは死んだと思って野原を見に行きました。ところが大穴牟遅神おおなむちのかみが現れて鳴鏑なりかぶら須佐之男命すさのおのみこと返しました。

須佐之男命すさのおのみこと大穴牟遅神おおなむちのかみを家に入れ、大きな部屋へ招き入れました。そして今度は自分の頭のしらみを取るように命じました。ところが、頭にいたのはたくさんの呉公むかででした。そこで大穴牟遅神おおなむちのかみ須勢理毗売命すせりびめのみことから授けられた牟久むくの実を噛み砕き、赤土を口に含んで吐き出しました。これを呉公むかでを噛み砕いているのだと勘違いした須佐之男命すさのおのみことはかわいい奴だと思ってそのまま寝入ってしまいました。

大穴牟遅神おおなむちのかみはこの隙に逃げようと須佐之男命すさのおのみことの髪をその部屋のたるきに結び付け、五百引岩いほびきのいわで部屋の扉を塞ぎました。そして須勢理毗売命すせりびめのみことを背負うと須佐之男命すさのおのみこと生大刀いくたち生弓いくゆみ、と天詔琴あめののりごとをくすねて逃げました。ところが天詔琴あめののりごとが木に触れて地が鳴動し、須佐之男命すさのおのみことが目を覚ましてしまいました。須佐之男命すさのおのみことは部屋を引き倒しましたが、たるきに結びつけられた髪をほどいている間に大穴牟遅神おおなむちのかみは逃げることができました。

須佐之男命すさのおのみこと大穴牟遅神おおなむちのかみ黄泉比良坂よもつひらさかまで追いましたがそこで追いかけるのをやめて叫びました。その生大刀いくたち生弓いくゆみで兄弟を追い払って大国主おおくにぬし宇都志国主うつしくにぬしとなり、須勢理毗売命すせりびめのみことを正妻として宇迦の山うかのやまの麓で底津石根そこついわねに太い柱を立てて高天原たかまがはらまで届く氷椽ひぎをそびえさせた宮殿を建てて住めこの野郎め、と告げました。

そうして大穴牟遅神おおなむちのかみ生大刀いくたち生弓いくゆみを使って八十神やそがみを追い払い、国の主、大国主神おおくにぬしのかみとなりました。

用語

登場する神様

大穴牟遅神おおなむちのかみ
八上比売と結婚したが八十神に追われて根之堅洲国へ逃げてきた。
須佐之男命すさのおのみこと
八岐大蛇を倒した。
須勢理毗売命すせりびめのみこと
須佐之男命の娘。

登場する場所

根之堅洲国ねのかたすくに
根の国とも。黄泉国と同じく地下にある世界で黄泉比良坂で地上世界とつながっている。
黄泉比良坂よもつひらさか
地上世界から黄泉国と根之堅洲国へ通じる坂。松江市にある伊賦夜坂いふやさかがその地であるという伝承がある。
宇迦の山うかのやま
島根県の出雲北山山地のこととされる。
高天原たかまがはら
神々が住む天上界。

登場する道具

比礼ひれ
女性が結ばずに首の左右から垂らすスカーフの様なもの。
鳴鏑なりかぶら
射放つと音が鳴る鏑矢かぶらやの先端につける矢じり。
生大刀いくたち
生命が宿る剣。
生弓いくゆみ
生命の宿る弓。
天詔琴あめののりごと
神のお告げに使われる琴。

他の用語

八十神やそがみ
大穴牟遅神の兄弟。たくさんの神々という意味。
葦原色許男あしはらしこお
葦原中国の頑丈で強い男。ただし、日本書紀では“葦原醜男”としているので醜い男とする見方もある。
むろや
部屋のこと。
牟久むく
椋。ムクノキ。
たるき
垂木。屋根を支えるために棟から軒先に渡す部材
五百引岩いほびきのいわ
500人がかりでないと動かない巨石。
氷椽ひぎ
屋根に取り付けられるV字型の部材である千木ちぎのうち先端が横削ぎのもの。
大国主おおくにぬし
偉大な国の主。
宇都志国主うつしくにぬし
偉大な地上世界の主。
底津石根そこついわね
地の底にある岩。
史料によって解釈が異なる場合があります。
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