妻問い
大国主神は八上比売を宮殿に迎えますが、八上比売は正妻となった須勢理毘売命の嫉妬を恐れて大国主神との間に生まれた子を木の俣に刺し挟んで稲羽へ逃げ帰ってしまいました。この子は木俣神、もしくは御井神と言います。
またある時
大国主神は沼河比売を娶ろうと高志国へ出かけました。沼河比売の家を訪れた大国主神は戸越しに歌を詠みました。
八千矛神は八島国で妻を娶ること出来ずにいたが、遠く高志国に賢く麗わしい女がいると聞いてはるばるやって来た。太刀の紐も解かず、上着も脱がないまま乙女の寝ている家の板戸を押し揺すぶっていると、緑の山に鵼が鳴き、野の雉は騒ぎ、庭の鶏も鳴いている。忌々しく鳴いている鳥どもを打ち懲らして鳴き止ませられないものか。このことを語って伝えよう。
すると沼河比売は戸を開けずに家の中から応えました。
八千矛神よ、私は萎え草のような女です。心は今は浜辺の千鳥のようですが、やがてあなたの鳥となりますのでどうか殺さないでください。青山に日が沈めば夜が来ます。あなたは朝日のように微笑みかけ、栲網のような白い腕と沫雪のような若々しい胸に触れ、互いに抱き合って、互いの手を枕にして、足を伸ばして休めることでしょう。ですから恋を急かさないでください。八千矛神よ。このことを語って伝えよう。
大国主神と沼河比売はこの晩は会いませんでしたが翌晩には会って結婚しました。