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国譲り

記事Oct.29th, 2020
天津神がさまざまな策略により大国主神に国を明け渡してもらう話。
史料によって解釈が異なる場合があります。
史料によって解釈が異なる場合があります。

物語

国譲り

大国主神おおくにぬしのかみ国造りくにづくりの後、天照大御神あまてらすおおみかみ豊葦原之千秋長五百秋之水穂国とよあしはらのちあきながいほあきのみづほのくには自らの子である正勝吾勝勝速日天忍穂耳命まさかつあかつかちはやひあめのおしほみみのみことが治めるべきであると言って葦原中国あしはらのなかつくにへ降りるように命じました。天忍穂耳命あめのおしほみみ天浮橋あめのうきはしへ行きましたが、そこから下を覗いて下界の物騒な様子を見て引き返しました。そして天照大御神あまてらすおおみかみに相談しました。

高御産巣日神たかみむすびのかみ天照大御神あまてらすおおみかみ天の安河あめのやすかわの川原に八百万の神やおよろずのかみを集めて思金神おもいかねのかみに策を考えさせ、天照大御神あまてらすおおみかみ葦原中国あしはらのなかつくには我が子が治める国であるが、荒ぶる国津神くにつかみがたくさんいて、これらを鎮めるにはどの神を遣わすべきかと言いました。

思金神おもいかねのかみと神々が相談した結果、天之菩卑能命あめのほひのみことを派遣することにしました。天之菩卑能命あめのほひのみこと葦原中国あしはらのなかつくにへ降りましたが、大国主神おおくにぬしのかみに懐柔されてしまい、3年経っても高天原たかまがはらへ帰ってきませんでした。

再び高御産巣日神たかみむすびのかみ天照大御神あまてらすおおみかみは神々を集め、天之菩卑能命あめのほひのみことは戻ってこないが、次はどの神を派遣するべきか問うと、思金神おもいかねのかみ天津国玉神あまつくにたまのかみの子の天若日子あめのわかひこを派遣するべきだと答えました。

天若日子あめのわかひこ天之麻迦古弓あめのまかこゆみ天之羽々矢あめのははやを授けられて派遣されました。しかし、天若日子あめのわかひこ葦原中国あしはらのなかつくにへ降りるとすぐに大国主神おおくにぬしのかみの娘の下照比売したてるひめと結婚し、自らが葦原中国あしはらのなかつくにを治めようと企み、8年たっても高天原たかまがはらへ帰ってきませんでした。

天照大御神あまてらすおおみかみ高御産巣日神たかみむすびのかみは神々に、天若日子あめのわかひこが帰らないが、どの神を送ってその理由を問うべきかと言いました。すると思金神おもいかねのかみは雉の鳴女なきめを送るべきと答えたので、天照大御神あまてらすおおみかみ鳴女なきめ葦原中国あしはらのなかつくにへ降りて天若日子あめのわかひこがどうしているのか問うように言いました。また、お前を送ったのは荒ぶる国津神くにつかみを鎮めるためだが、なぜ8年たっても報告がないのか問うように命じました。

鳴女なきめ葦原中国あしはらのなかつくにへ降りると天若日子あめのわかひこの家の前の湯津楓ゆつかつらに止まり、天照大御神あまてらすおおみかみの言葉を伝えました。天佐具売あめのさぐめがこの鳥の鳴き声は不吉だから射殺すべきだと言ったので天若日子あめのわかひこ天照大御神あまてらすおおみかみから与えられた天之麻迦古弓あめのまかこゆみ天之羽々矢あめのははや鳴女なきめを射殺しました。

鳴女なきめを射貫いた矢は高天原たかまがはら天照大御神あまてらすおおみかみ高木神たかぎのかみのもとへ届きました。高木神たかぎのかみ高御産巣日神たかみむすびのかみのことです。高木神たかぎのかみが矢を取ると血がついていました。そして、天若日子あめのわかひこが命に背いておらず、悪い神の射た矢が飛んで来たのであればこの矢は天若日子あめのわかひこに当たらず、もし天若日子あめのわかひこに邪心があればこの矢は天若日子あめのわかひこに当たるだろうと言って矢を下界へ落としました。すると矢は天若日子あめのわかひこが寝ているところへ飛んでいき、矢が当たった天若日子あめのわかひこは死んでしまいました。

天若日子の葬式

天若日子あめのわかひこの妻の下照比売したてるひめの鳴き声は風に乗って高天原たかまがはらまで届き、天若日子あめのわかひこの父である天津国玉神あまつくにたまのかみとその妻子は葦原中国あしはらのなかつくにへ降りて嘆き悲しみました。喪屋もやを建てて、川雁を岐佐理持きさりもちに、鷺を掃持はわきもちに、カワセミを御食人みけびとに、雀を碓女うすめに、雉を哭女なきめにして八日八夜の間霊魂を招く歌舞をしました。

葬儀の時、天若日子あめのわかひこを弔うために阿遅志貴高日子根神あじすきたかひこねのかみが訪れました。すると阿遅志貴高日子根神あじすきたかひこねのかみがあまりにも天若日子あめのわかひこと似ていたので天若日子あめのわかひこの父母と妻は泣いて天若日子あめのわかひこは死んでいなかったのだと阿遅志貴高日子根神あじすきたかひこねのかみに縋りついて泣きました。阿遅志貴高日子根神あじすきたかひこねのかみは、良き友を弔いに来たのになぜ穢れた死者にみられなければならないのかと怒り、十拳剣とつかのつるぎ喪屋もやを斬り倒して蹴とばしました。

この蹴とばされた喪屋もや美濃国みののくに藍見河あいみがわの上流にある喪山もやまです。そして阿遅志貴高日子根神あじすきたかひこねのかみ十拳剣とつかのつるぎの名は大量おおはかり、もしくは神度剣かむどのつるぎと言います。

また、阿遅志貴高日子根神あじすきたかひこねのかみが飛び去るとき、下照比売したてるひめは名を明かすためにこう歌いました。

天上にいる織女が首にかけている首飾りの玉。その首飾りの穴のあいた玉が輝くように輝いている、谷を二つに渡って輝せる阿遅志貴高日子根神あじすきたかひこねのかみ

この歌が夷振ひなぶりです。

建御雷之男神

天照大御神あまてらすおおみかみが再び神々にどの神を派遣したら良いか問いました。すると思金神おもいかねのかみ天の安河あめのやすかわの上流の天石屋あまのいわやにいる天尾羽張神あめのおはばりのかみ、もしくはその子の建御雷之男神たけみかづちのおのかみを派遣するべきと言いました。そして天の安河あめのやすかわ天尾羽張神あめのおはばりのかみがせき止めて塞いでいて他の神は行けないので天迦久神あめのかくのかみを遣わして問べきだと言いました。天迦久神あめのかくのかみ天尾羽張神あめのおはばりのかみに問うと、天尾羽張神あめのおはばりのかみは恐れ多き事ですが、お受けしましょうと答えました。しかし、我が子の建御雷之男神たけみかづちのおのかみを派遣した方が良いと言い、建御雷之男神たけみかづちのおのかみ天鳥船神あめのとりふねのかみとともに派遣しました。

建御雷之男神たけみかづちのおのかみ天鳥船神あめのとりふねのかみ出雲国いずものくに伊那佐の小浜いなさのおばまへ降臨しました。建御雷之男神たけみかづちのおのかみ十拳剣とつかのつるぎを波打ち際に逆さに突き立てるとその切先にあぐらをかいて座りました。そして建御雷之男神たけみかづちのおのかみ大国主神おおくにぬしのかみに、天照大御神あまてらすおおみかみ高木神たかぎのかみの命で遣わされたのだと言い、葦原中国あしはらのなかつくに天照大御神あまてらすおおみかみの子が治めるべきであると仰せられているがそれについてどう思うかと問いました。

大国主神おおくにぬしのかみは自分は答えることはできないので、息子の八重事代主神やえことしろぬしのかみに尋ねるように言いました。八重事代主神やえことしろぬしのかみ御大の御前みほのみさきに鳥や魚を捕りに行っていましたが、天鳥船神あめのとりふねのかみ八重事代主神やえことしろぬしのかみを連れてきて、建御雷之男神たけみかづちのおのかみが国譲りを迫ると八重事代主神やえことしろぬしのかみは承諾しました。そして八重事代主神やえことしろぬしのかみは船をひっくり返すと天の逆手あめのさかてを打って青柴垣あおふしがきに変えてその中に隠れました。

建御雷之男神たけみかづちのおのかみ大国主神おおくにぬしのかみに、八重事代主神やえことしろぬしのかみはこう言ったが他に聞くべき子はいるかと問いました。大国主神おおくにぬしのかみ建御名方神たけみなかたのかみが最後だと答えました。

そうしていると建御名方神たけみなかたのかみ千引石ちびきのいわを手の先で持ち上げながらやって来ました。そして誰が自らの国に来てひそひそと話しているのかと問い、力比べを提案しました。最初に建御名方神たけみなかたのかみ建御雷之男神たけみかづちのおのかみの手をつかむと建御雷之男神たけみかづちのおのかみの手はつららに、さらには刀に変わり、建御名方神たけみなかたのかみは恐れをなして引き下がりました。今度は建御雷之男神たけみかづちのおのかみ建御名方神たけみなかたのかみの手を取ると葦の芽を摘むかのように一捻りにして放り投げたので、建御名方神たけみなかたのかみは逃げ出しました。建御名方神たけみなかたのかみ科野国しなののくに州羽の海すわのうみまで追いつめられました。建御雷之男神たけみかづちのおのかみは今後はこの地から出ず、父大国主神おおくにぬしのかみ八重事代主神やえことしろぬしのかみの言うことには背かず、そしてこの葦原中国あしはらのなかつくに天照大御神あまてらすおおみかみの子に献上すると命乞いしました。

建御雷之男神たけみかづちのおのかみ大国主神おおくにぬしのかみのところへ戻ると、八重事代主神やえことしろぬしのかみ建御名方神たけみなかたのかみ天照大御神あまてらすおおみかみの子に従うと言っているがお前はどうかと問いました。大国主神おおくにぬしのかみは子達が言った通り葦原中国あしはらのなかつくにを献上すると答えました。そして、住む場所として底津石根そこついわねに太い柱を立てて高天原たかまがはらまで届く氷椽ひぎをそびえさせた天照大御神あまてらすおおみかみの子孫が住むような宮殿を建ててくれれば八十坰手やそくまでへ隠れようと言いました。また、大国主神おおくにぬしのかみは自らの子の百八十神ももやそがみ八重事代主神やえことしろぬしのかみに従っているので逆らうことはないだろうと言いました。

建御雷之男神たけみかづちのおのかみ出雲国いずものくに多芸志の小浜たぎしのおばまに宮殿を建てました。そして水戸神みなとのかみの孫の櫛八玉神くしやたまのかみ膳夫かしわでとなって天御饗あめのみあえを献上するときに、櫛八玉神くしやたまのかみは鵜になって海の底へ潜って採ってきた粘土で天八十毘良迦あめのやそひらかを、海布の茎で燧臼ひきりうすを、海蓴こもの茎で燧杵ひきりぎねを作り、火を起こして言いました。この火は高天原たかまがはら高御産巣日神たかみむすびのかみの宮殿の煤が長く垂れるまで焼き上げ、底津石根そこついわねが焼き固まるようまで焚きましょう。長い栲縄たくなわで海女が釣った口の大きい尾翼鱸おわたすずきをざわざわと引き上げて、打竹さきたけがたわむぐらいの天之真魚咋あめのまなぐいを献上しましょうと。

こうして建御雷之男神たけみかづちのおのかみ葦原中国あしはらのなかつくにを平定して高天原たかまがはらへ戻りました。

用語

登場する神様

大国主神おおくにぬしのかみ
葦原中国の国造り為した国の主。
天照大御神あまてらすおおみかみ
太陽の神。高天原の主宰神。
正勝吾勝勝速日天忍穂耳命まさかつあかつかちはやひあめのおしほみみのみこと
天忍穂耳命あめのおしほみみとも。天照大御神と須佐之男命の誓約で生まれた神の一柱。
高御産巣日神たかみむすびのかみ
高木神たかぎのかみとも。天地開闢の初めに生まれた造化三神の一柱。創造の神。
思金神おもいかねのかみ
知恵の神。
天之菩卑能命あめのほひのみこと
天照大御神が大国主神へ送った最初の使者。天照大御神と須佐之男命の誓約で生まれた神の一柱。
天津国玉神おまつくにたまのかみ
天若日子の父。詳しい記述はない。
天若日子あめのわかひこ
天照大御神が大国主神へ送った二番目の使者。
下照比売したてるひめ
大国主神と多紀理毘売命の子。雷神。
鳴女なきめ
雉。
天佐具売あめのさぐめ
大国主神に仕えるとみられる神。天邪鬼の原像とされる。
阿遅志貴高日子根神あじすきたかひこねのかみ
大国主神と多紀理毘売命の子。雷神、もしくは農耕の神とされる。
天尾羽張神あめのおはばりのかみ
建御雷之男神の父。伊邪那岐命の十拳剣の神格化した剣の神。
建御雷之男神たけみかづちのおのかみ
伊邪那岐命が火之迦具土神を斬ったときに生まれた神の一柱。雷神、地震の神、もしくは剣の神。
天鳥船神あめのとりふねのかみ
神生みで生まれた神の船。鳥之石楠船神とりのいわくすぶねのかみとも。
八重事代主神やえことしろぬしのかみ
重事代主神ことしろぬしのかみとも。大国主神と神屋楯比売命の子。託宣、もしくは漁業の神。えびすと同一視される。
建御名方神たけみなかたのかみ
農耕の神、狩猟の神。
櫛八玉神くしやたまのかみ
神に供物の神。

登場する場所

葦原中国あしはらのなかつくに
高天原と黄泉国の間にある地上の世界。
天浮橋あめのうきはし
天上にある下界へ降りる途中にある橋。下界を見渡すことができる。
天の安河あめのやすかわ
高天原を流れる川。
美濃国みののくに
現在の岐阜県南部。
藍見河あいみがわ
長良川の旧称とする説がある。
喪山もやま
岐阜県不破郡垂井町の喪山古墳、もしくは美濃市の喪山天神社などとする説がある。
天石屋あまのいわや
天の安河の上流にある岩でできた洞窟。天照大御神が隠れた天岩戸かは不明。
出雲国いずものくに
現在の島根県東部。
伊那佐の小浜いなさのおばま
島根県出雲市にある稲佐の浜。
御大の御前みほのみさき
島根県松江市の美保関みほのせきの地蔵崎。
科野国しなののくに
信濃国しなののくに。現在の長野県。
州羽の海すわのうみ
長野県の諏訪湖。
多芸志の小浜たぎしのおばま
島根県出雲市の武志たけしなど諸説ある。

登場する道具

十拳剣とつかのつるぎ
10束の長さの剣。1束はこぶし一つ分の長さ。
天之麻迦古弓あめのまかこゆみ
天之波士弓あめのはじゆみとも。天照大御神が天若日子に授けた弓。
天之羽々矢あめのははや
天之加久矢あめのかくやとも。天照大御神が天若日子に授けた矢。
神度剣かむどのつるぎ
大量おおはかりとも。阿遅志貴高日子根神の神剣。
天八十毘良迦あめのやそひらか
平たい祭祀用の土器。
燧臼ひきりうす
火きり臼。火を起こすために使われる道具。
燧杵ひきりぎね
火きり杵。火を起こすために使われる道具。
栲縄たくなわ
コウゾの繊維で作った縄。
打竹さきたけ
割った竹の

他の用語

国譲りくにゆずり
大国主神が葦原中国を天津神に譲り渡したこと。
国造りくにづくり
大国主神が葦原中国を開発したこと。
豊葦原之千秋長五百秋之水穂国とよあしはらのちあきながいほあきのみづほのくに
葦原中国の美称。
国津神くにつかみ
葦原中国に生まれた神々。
八百万の神やおよろずのかみ
たくさんの神々。
湯津楓ゆつかつら
斎つ桂ゆつかつらとも。神聖なカツラの木。
喪屋もや
埋葬する前にしばらくの間遺体を安置するために建てる小屋。
岐佐理持きさりもち
葬儀の時に死者への供物を持ってささげる役目。
掃持はわきもち
葬儀の時にほうきを持つ役目。穢れを祓うためともいう。
御食人みけびと
葬儀の時に死者に供える食物を調理する役目。
碓女うすめ
葬儀の時に米をついて白米にする役目の女。
哭女なきめ
葬儀の時に泣く役目の女。
夷振いなぶり
夷曲いきょくとも。古代の歌の一つ。
天の逆手あめのさかて
まじないをするときの手の叩き方。具体的な叩き方は不明。
青柴垣あおふしがき
青葉のついた柴で編んだ垣根。
千引岩ちびきのいわ
1000人がかりでないと動かない巨石。
水戸神みなとのかみ
河口の神。神生みで生まれた速秋津比古神と速秋津比売神のこととされる。
底津石根そこついわね
地の底にある岩。
氷椽ひぎ
屋根に取り付けられるV字型の部材である千木ちぎのうち先端が横削ぎのもの。
八十坰手やそくまで
遠い場所とする説や死者の国とする説がある。
百八十神ももやそがみ
大国主神のたくさんの子。文字通り180柱の神とする見方もある。
膳夫かしわで
神に仕えて食膳を用意する役目。
天御饗あめのみあえ
神に捧げられる食物。
海布
ワカメのこと。
海蓴こも
小甘藻のこと。海藻の一種。
尾翼鱸おわたすずき
尾やヒレが張ったみごとなスズキ。
天之真魚咋あめのまなぐい
神に捧げられる魚料理。
史料によって解釈が異なる場合があります。
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