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海幸彦と山幸彦

記事Nov.13th, 2020
邇邇芸命の子である火遠理命が兄と争い、海神の力を借りて服従させる話。
史料によって解釈が異なる場合があります。
史料によって解釈が異なる場合があります。

物語

海幸彦と山幸彦

火照命ほでりのみこと海佐知毘古うみさちひことなって大小さまざまな魚を捕っていて、火遠理命ほおりのみこと山佐知毘古やまさちひことなってさまざまな獣を捕っていました。

ある日火遠理命ほおりのみこと火照命ほでりのみことにそれぞれの佐知さちを交換しようともちかけました。火照命ほでりのみことは三度頼んでも許しませんでしたが、やっとのことで交換してもらうことができました。

そうして火遠理命ほおりのみこと海佐知うみさちを使って魚釣りをしましたが、一匹も捕ることができませんでした。そのうえその釣り針を失くしてしまいました。

そんな時、火照命ほでりのみことは、山の獲物を捕るには山佐知毘古やまさちひこ山佐知やまさちを使うべきで、海の獲物を捕るにも海佐知毘古うみさちひこ海佐知うみさちを使うべきなので、それぞれの佐知さちを戻そうと言って釣り針を返すように求めました。すると火遠理命ほおりのみことは、あなたの釣り針で魚釣りをしたが一匹も釣れず、釣り針を失くしてしまったと答えました。

火照命ほでりのみことは釣り針を返すように強く求めたので火遠理命ほおりのみこと十拳剣とつかのつるぎを鋳つぶして500本の釣り針を作って償おうとしましたが、火照命ほでりのみことは受け取らず、さらに1000本の釣り針を作りましたが、それも受け取りませんでした。そして火照命ほでりのみことは元の釣り針を返すように求めました。

海神の宮

困った火遠理命ほおりのみことが海辺で泣いていると塩椎神しおつちのかみが来てなぜ虚空津日高そらつひこが泣いているのかと問いました。すると火遠理命ほおりのみことは、兄と釣り針を交換したが、その釣り針を失くしてしまい、たくさんの釣り針を作って償おうとするも受け取ってもらえず、あの釣り針を返すように言うので泣いているのだと答えました。

塩椎神しおつちのかみはあなたのために良い案を出しましょうと言って竹で隙間無く編んだ小舟を作り、その小舟に火遠理命ほおりのみことを乗せました。塩椎神しおつちのかみは、この船を押して流すのでしばらくそのまま進むようにと言いました。そして、良い道があるのでその道に乗って行けば魚の鱗のような宮殿があり、それは綿津見神わたつみのかみの宮殿で、その宮殿の門に着いたらその傍らの井戸の近くにある湯津香木ゆつかつらがあるので、その木の上に座っていれば、海神わたつみの娘が取り計らってくれるだろうと言いました。

火遠理命ほおりのみことが教えられた通りにすると宮殿があったので、香木かつらの上に座りました。すると、海神わたつみの娘の豊玉毘売とよたまひめの従者が玉器ぎょっきを持って水を汲みに来ました。水を汲もうとすると井戸に光が見えて、見上げると美しい男がいるのが見えたので、従者はとても不思議に思いました。火遠理命ほおりのみことはその従者に水を求めたので、従者は水を玉器ぎょっきに汲んで差し出しました。火遠理命ほおりのみことは水を飲まずに、首飾りの玉を解いて口に含むとその玉器ぎょっきに吐き出しました。玉は玉器ぎょっきにくっつき、従者は剥がすことができなかったので玉がついたままの玉器ぎょっき豊玉毘売とよたまひめに見せました。

豊玉毘売とよたまひめはそれを見て、門の外に誰かいるのかと問いました。すると従者は、井戸の上の香木かつらの上に美しい男がいて、我が王より貴き方のようにお見受けしましたと答えました。そして、その方が玉器ぎょっきに吐き出した玉が剥がれないのでそのまま持ってきたのだと言いました。豊玉毘売とよたまひめは不思議に思って外へ出ました。すると、火遠理命ほおりのみことを見て一目惚れし、父に門に美しい男がいると言いました。海神わたつみは自ら外へ出て見ると、この人は天津日高あまつひこ御子みこ虚空津日高そらつひこだと言ってすぐに宮殿に招き入れると美智皮みちのかわを幾重にも重ねて敷いて、その上に幾重の絁畳きぬたたみを敷くとそこに火遠理命ほおりのみことを座らせました。そして、百取の机代物ももとりのつくえしろのものでもてなして娘の豊玉毘売とよたまひめと結婚させました。

火遠理命ほおりのみことはそれから3年もの間この国に住みました。

海神の呪い

ある時、火遠理命ほおりのみことは事の始まりを思い出して大きなため息をしました。豊玉毘売とよたまひめはそのため息を聞くと父に、3年住んでいて今までため息などしませんでしたが、今夜大きなため息をしているのには何か理由があるのでしょうかと尋ねました。豊玉毘売とよたまひめの父である大神は娘の夫に、娘から聞いたことについて問いました。そして、そもそもここに来たはなぜかと問いました。火遠理命ほおりのみことは兄の釣り針を失くして責められているということを話しました。

海神わたつみは大小の魚を呼び集めるとこの釣り針を取った者はいないかと問いました。すると魚たちは、このころ赤海鯽魚たいが喉に骨が刺さって物が食べられないと悩んでいると言っていたので、これが取ったのでしょうと答えました。そこで赤海鯽魚たいの喉を見てみると釣り針があったので、これを取り出して洗い清め、火遠理命ほおりのみことに差し出しました。そしてこの時、綿津見神わたつみのかみは、この釣り針を兄に返す時には、この釣り針は憂鬱になる釣り針、イライラする釣り針、貧しくなる釣り針、おろかになる釣り針、と唱えて後ろ手に渡すように言いました。また、兄が高いところに田を作ったならあなたは低いところに田を作り、兄が低いところに田を作ったならあなたは高いところに田を作れば、私は水を操れるので3年後には兄は貧しくなって苦しむだろうと言い、もし恨んで攻めてきたなら塩盈珠しおみつたまを使って溺れさせ、謝ってきたら塩乾珠しおふるたまを使って助け、こうやって苦しめてやれば良いと教えました。

綿津見神わたつみのかみ塩盈珠しおみつたま塩乾珠しおふるたま火遠理命ほおりのみことに授けると和邇わにを呼び集め、天津日高あまつひこ御子みこ虚空津日高そらつひこが上の国へ帰ろうとしているが、誰が何日で送ることができるかと問いました。和邇わにはそれぞれの能力をわきまえて日数を言いましたが、一尋和邇ひとひろわには一日で送って帰って来られると豪語したので、綿津見神わたつみのかみ一尋和邇ひとひろわに火遠理命ほおりのみことを送るように命じました。そして、海中を通るときに恐ろしい思いをさせないようにと言って火遠理命ほおりのみことをその和邇わにに乗せて送り出しました。

和邇わには約束した通り一日で送りました。この和邇わにが帰ろうとしているとき、火遠理命ほおりのみことは身に着けていた紐小刀ひもがたなを解いて和邇わにの首に掛けてねぎらいました。この一尋和邇ひとひろわに佐比持神さひもちのかみと呼ばれるようになりました。

火遠理命ほおりのみこと海神わたつみに教えられた通りに釣り針を返しました。するとそれから火照命ほでりのみことは窮乏していき、心が荒れて攻めてきました。そこで火遠理命ほおりのみこと塩盈珠しおみつたまを使って溺れさせ、謝ってくると塩乾珠しおふるたまを使って助けました。こうやって火遠理命ほおりのみこと火照命ほでりのみことを懲らしめると、火照命ほでりのみことはついに、これからはあなたを夜昼守る守り人となって仕えようと言いました。こうやって隼人阿多君はやとのあたのきみはその溺れたときの様子を演じて仕えるようになりました。

用語

登場する神様

火照命ほでりのみこと
邇邇芸命と木花佐久夜毘売の子。
火遠理命ほおりのみこと
邇邇芸命と木花佐久夜毘売の子。天津日高日子穂穂手見命あまつひこひこほほでみのみこと日子穂穂手見命ひこほほでみのみこととも。火の神、もしくは豊穣の神。
塩椎神しおつちのかみ
潮流を司る神とされる。
綿津見神わたつみのかみ
海の神。神生みで生まれた大綿津見神と同一とみられる。
豊玉毘売とよたまひめ
綿津見神の娘。
佐比持神さひもちのかみ
火遠理命を綿津見神の宮殿から送った和邇。

登場する道具

十拳剣とつかのつるぎ
10束の長さの剣。1束はこぶし一つ分の長さ。
玉器ぎょっき
翡翠でできた器。
塩盈珠しおみつたま
綿津見神が火遠理命に授けた霊力のある玉。潮を満ちさせる力がある。
塩乾珠しおふるたま
綿津見神が火遠理命に授けた霊力のある玉。潮を引かせる力がある。
紐小刀ひもがたな
紐を鞘につけた小刀。

他の用語

海佐知毘古うみさちひこ
海幸彦うみさちひことも。海の漁師。
山佐知毘古やまさちひこ
山幸彦やまさちひことも。山の猟師。
佐知さち
さちとも。獲物を捕る道具のこと。また、獲物もさちと呼ばれ、道具には霊力が宿り獲物を呼び寄せるとされることから。
海佐知うみさち
漁師の道具。ここでは釣り針。
山佐知やまさち
猟師の道具。具体的な記述はないが弓矢のこととされる。
虚空津日高そらつひこ
天津神のことだが、火遠理命を指すのに使われる。
湯津香木ゆつかつら
神聖なカツラの木。
海神わたつみ
ここでは綿津見神のこと。
天津日高あまつひこ
高天原と関わる神を称える美称。ここでは邇邇芸命のこととされる。
美智皮みちのかわ
アシカの皮。
絁畳きぬたたみ
絹糸で織った敷物。
赤海鯽魚たい
鯛のこと。
和邇わに
サメのこととされる。ただし、現代と同じようにワニとする説や他の動物とする説もある。
一尋和邇ひとひろわに
1尋の長さの和邇。1尋は約1.8m。
百取の机代物ももとりのつくえしろのもの
たくさんの飲食物がのった食卓の意味。女性の側から男性の側に贈られる結納品。
隼人阿多君はやとのあたのきみ
火照命を祖とし、古代に鹿児島県西部の薩摩半島に住んだとされる人々である阿多隼人あとはやと。のちに薩摩隼人さつまはやとと呼ばれる。
史料によって解釈が異なる場合があります。
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